そして、当然のように他社ブランドの布団を悪く言ったあげくに、「ちょっと、いいですか?」と言ったかと思うと、お客様が戸惑い返事に困っている間に、その見せてもらった布団を待機場所の車まで持っていってしまい、かわりに自社商品である、数十万円もする布団を持っていき、今度は散々、自社商品の自慢をして、押し付けるようにして売るのである。
これを見て、オッサンは愕然とした。
自分が、これまでやってきた営業は何だったのか? あの一週間近くの研修は何だったのか? こんなことをしろなどとは一言も言われてはいない。
このときオッサンは、自分自身の心の中で秘かに決意した。(この会社が、どんな売り方を自分に強制しようと、俺は、押し売りはしないし、会社名もはっきりと最初に伝える。)
良い商品なのだから、あたり前の売り方で必ず売れるはずだし、そうするべきであると考えたのだ。
しかし、現実は厳しかった。
商品説明どころか、商品を見せる段階までいけないのだ。
ほとんどの家で、会社名を言ったとたんにアプローチアウト。その中には、殴りかからんばかりに怒りだした人が何人もいた。
おそらく以前、押し売り同然な売り方をされた家なのだろうと思いながら、オッサンは凝りず、あきらめず、会社名を最初にハッキリと言い続けたが、結果は出なかった。
それでもまだ、三ヶ月間程は新人の育成期間ということで、会社からは大目に見てもらえていたのだ。問題は、育成期間が終わり、新人がバラバラにされて、それぞれの売上実戦部隊へと配属されてからである。
この、売上実戦部隊に移って、オッサンが特に気になったのは、この支社は、新横浜駅近くにあるのだが、、東京だとか神奈川だとかの、近郊や周辺の都市などは一切まわることなく、千葉、茨城、埼玉、静岡と毎日かなりな遠出をするのである。
今から考えてみると、おそらく近郊や、その周辺ではこの会社というか支社の、売り方は知れわたっていたのではないかと思う。
だから、ときには三、四日の泊まりがけで、わざわざ新潟や長野、栃木といった場所へと出張営業をしていた。
オッサンが配属されたのは、支社一番の売上げを誇る、○○次長の率いる実戦部隊で、十二名のグループ行動で布団を売りまくっていた。
これが、まさに兵隊のようなもので、十二名の内、四名は車の中で待機しているだけである。残りの八名が散りぢりに走り回って、売れそうな家を捜すのだ。
オッサンは、この売上げ実戦部隊に半年間いて、内心では、この支社の営業のやり方を変えてやるぞと、うぬぼれていたものだ。
だが、できなかった。さすがに支社一番の売上げを出す実戦部隊である。
その強引な、客の心理など無視しきったような売り方は、すさまじかった。
こんなのは、ビジネスとは言えない。完全な押し売りだ。犯罪だ。と思いはじめたのである。
そしてついに、オッサンは○○次長に直に、こう尋ねた。
「僕らのやってるのは、押し売りですか?」
「押し売りだっ!あたりまえだろうがっ!」と、○○次長は大声で言い切った。
オッサンは、即座にやめることを決意した。