誤解をしてもらいたくないので、これだけは話しておきたいのですが、おっさんの顔は恐いといっても、べつにバケモノのような顔をしているわけではない。
いや、そうだと言い切る者も、もしかしたらいるかもしれないが、本人はそうは思ってはいない。
百歩譲って、冷静に自分の顔を分析してみると、ブサイクな顔の猿が、そのまま大きくなった姿とでも言ったら、最も近いと思う。
吉本興業のホンコンだとか、チャウチャウ犬だとか、ゴリラだとか、クマだとか、他人は実にいろんなことを言ってくれるが、おっさんが思うには、ようするに、顔がヤクザっぽいと言うことだと思う。つまりゴツイ顔なのである。
ここで、断っておくが、おっさんは、ヤクザ屋さんたちとは一切縁もゆかりもない。
もちろん両親にしても一般人であるし、そのばあさんも、じいさんもそうである。そのまた、ひいばあさんも、ひいじいさんも・・・きりがない。
つまるところ恐ろしい顔と言ったところで、まったくの見かけだおしなのである。
一度でも会話をしてみるならば、それは明らかとなる。
いたって穏やかな、どこにでもいる普通の・・・いや、少し変わった人なのだ。
一言でいうと、変なおじさんだ。
けれども、決して狂暴ではないし、変態でもなく、そんなに恐い男でもない。
友人などは、おっさんのことを、石橋を叩いて壊すなどと、よく言うのだが、これは小心者だという意味であり、暴力的な人だということではない。
かといって、おとなしくもない。
臆病のようでいて、大胆でもあり、恥ずかしがりのようで、恥知らずな部分もある。
つまり、わけのわからない性格の男なのである。
であるからして、いきなりストリートミュージシャンにもなるし、良いと思ったことはなんであれ、やって見なければ気が済まないのである。
いうまでもなく、おっさんは歌が好きなので、今でも、いろんな人たちとカラオケ屋に行くのだが、ストリートで歌うことと、カラオケで歌うことには、何か質的に楽しさがちがう。
ちょうど、テレビでサッカーの試合を見るのと、実際にスタジアムで応援する興奮のちがいとでも言うのか、アナログとデジタルのちがいとでも言ったらいいのか・・・ とにかく、やってみたらはっきりとわかる。
そりゃあ たしかに、あらかじめセッティングされた演奏にのって、マイクで歌うほうが楽だし、気分もいいし、楽しいが、しかし
たとえ下手であっても、自分の演奏で、自分の生声で歌うことは、それだけ苦労する分、楽しさも数倍となる。
だいいちに開放感がちがう。
屋外で行うからか、歌うごとに自分をさらけだせる感じがする。
いってみれば、歌に集中しているときは、何もかも忘れ、心を裸にできるのである。
まさに、感情的なストリートキングだ。
変な言い方になってしまい、まことに申し訳ないけれども、これは真実なのであります。
そして今、この自由な開放感に、おっさんは酔っているのであります。
あーあ、バカは死んでも治らない。