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第 章

 オッサンのせいなのかどうか分からないけれども、自分でも考えもつかない珍事が、オッサンの身辺にはよく起こる。
 ついこの間も、友人に笑い飛ばされた出来事がある。
 というのは、オッサン達は月に一回か、あるいは二ヶ月に一回ほどの間隔で、音楽好きな仲間を集めてミニコンサートみたいなものを催しているのだが、それを終了して帰るときに、ちょっとしたハプニングがあった。 
 いつも、スピーカーやらミキサーといった機材等を友達の車で運び、終わったらまた、その車に積み込んで帰ってくる。
 なんの問題もなく、これまでそうやってきたのだが、なにせ、その場所は道幅がせまいのだ。簡単な機材といっても、それほど軽いわけではないから、なるべく手で持っていく距離をなくそうとギリギリの位置まで車をもっていく。行きは何も起きなかったが、帰りにはウソのような出来事が、オッサン達の目の前ではじまった。その狭い道路を、オッサンの友達は車をバックさせながらやって来ていた。
 オッサン達は荷物の側で待機しており、所定の位置まで車が来たら、荷物を積み込んで帰る心づもりである。
 まだまだ遠くへいる車に「オーライ、オーライ」と声をかけながら誘導していたオッサンの後から一台の自家用車がやってきた。(チェッ、間の悪いときに来やがって、早く行ってしまえ)と少しイラッとしながら通り過ぎるのを待っていると、これがまた、オッサンの近くに来るにしたがって、嫌味ったらしく速度をおとし、オッサン達から二、三メートルほどのところで止まったのである。(この野郎、邪魔だろうがっ!)と思いながら見ていると、その車の運転手は、通行人をつかまえて何か話をしている。それも運転席に座ってハンドルを握ったままだ。
 これを見てオッサンは、道をたずねているのだろうと考え、それならすぐに何処かへ走り去るだろうと安心していた。
 ところが、その運転手と通行人は急に火のついたかのように、怒鳴りあいのケンカを始めたのである。
 とにかく双方とも、ワァワァ、ギャーギャーと言い合っているばかりで、何がケンカの原因であるのかもまったく分からない。
 そんなことより、やっとこさ車が擦れ違えるほどの細い道路である。バックで近づいてきていた友人の車は先刻から止まって待っている。あともう少し近づけなければ荷物が積み込めないのだ。
 けれども、ケンカは終わりそうにない。オッサンは思わず、そのバカ車へと近づいて言い放った。「何でもいいから、車を移動しろ!ジャマだろうがっ!」
 もし、これで四の五のと文句を言ってきたら、今度は俺が相手になってやるぞと、これくらいの心づもりでいた。
 車はすぐに移動した。おかげでオッサン達は荷物を友人の車へと積み始めることができたが、帰る途中に友人達が言うには、あれはオッサンの顔が恐かったから、ヤバイと思ってすぐに車を移動させたのにちがいないと極めつけて笑うのだった。
 オッサンは、そのとき内心ではそんなことはないと認めてはいなかった。(俺も最近では、ずいぶん丸くなったのだ)
 ところが数日後、その考えは甘いとの認識を新にせざるをえない出来事があった。
 ある日、オッサンは自転車を宝町のローソンの前に止めて、タバコを吸っていた。
 別にめずらしくもない、ありきたりの風景なのだが、オッサンの自転車の横に止めてあったバイクを動かして、行こうとしていた五十代の見知らぬ男が、いきなり何を思ったのか、
 「どうも、すいませんでした。」と深々と頭を下げ、その後まるで逃げるようにバイクで走り去ったのである。
 そんなに、俺の人相は恐いのか?オッサンは悲しくなった。