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第 章

 この前、オッサンが地域ボランティアの消防団であり、選手となって地区別に開催される小型ポンプ操法大会にむけて練習をしていると書いたが、何をまちがったのか優勝をしてしまった。(実はこれには裏があった)
 誤解してはいけない。これは決して自慢しようなどと思っているのではない。
 そもそも、オッサン達の区域の小型ポンプ操法のチームは二つしかないのだ。
 つまり、このどちらかが勝てば、嫌でもその勝った方が優勝することになる。
 だから優勝と言っても、全くたいしたことではないのだ。
 しかるに、わざわざ何のために、ここに書き記すかというに、これは憤りのためである。
 何となれば、地区大会後に発覚したことなのだが、オッサン達の相手のチームはワザと負けるように画策していたというのだ。
 そういえば、思い当たる点がいくつもあった。
 このたった二チームのうち、一番目に競技を行ったのはオッサン達のチームであった。
 つまり、自分たちの競技が終わった後なので、余裕をもって後続チームの競技をみていられたのである。
 まず、一番員の走り方に疑問が生じた。何とはなしに力を抜いている感がある。それに二本目のホースのつなぎ方、これはもう決定的におかしかった。
 なぜなら、一番員が二本目のホースをつなぐ場合には、必ず膝下で行うように指示される。それも耳にタコができて落ちるくらいに何度も言われるから、一番員にとっての常識なのであるが、これを相手チームの一番員野郎は胸の高さでつなぎやがったのである。
 そして、三番員の機械操作。どう見てもモタモタとして、時間を稼いでいるように思えた。
 誰が見ても不自然だったのである。
 おそらくは、大会後に追求されて白状したものと思われる。
 まったくもってふざけた話ではないかっ!
 それなら最初から出場などするなと言いたい。
 そして、その事実を知らされた後に、オッサン達は次に予定されている市の大会へ向けての新たな消防訓練を行ったのである。
 この情けない図を想像していただきたい。
 テンションは上がろうはずもなく、下がりっぱなしで、やる気が出るわけもない。
 けれども、仕方がないのである。ウソでも優勝しているのだから、市の大会へは出場しなければならない。
 だが、今さらガタガタ言っても何にもならない。無駄に疲れるだけだ。ようはやるしかないのだ。
 半ばヤケクソ気分で練習日を決め、オッサン達は訓練をこなしていった。
 すると、不思議なもので、それなりの成果はでてくる。タイムが縮まってきたのだ。
 地区大会では必死に走っても四十六秒だったものが、練習では軽めに走って四十二秒、ポンプ操法とは、主にこのタイムを争う競技なのだ。
 「練習は、夜にしかできないが、大会当日は昼まで明るいから、もっとタイムが良くなるはずだ。こりゃあ、ひょっとすると、ひょっとするぞ」と、分団長は、冗談まじりに笑っていたものだ。
 しかるにである。大会前日、つまり十月三十一日の土曜の夜から、オッサンの歯はにわかに痛みはじめた。
 もとより歯医者などはあいていない。経験者ならわかると思うが、歯痛というのは、痛みだしたら眠ることすらできない。
 結局、一睡もできないまま、当日の朝を迎え、右頬を腫らしたまま、オッサンは市の小型ポンプ操法大会に出場した。
 結果は、後から二番目の成績となった。
 ブービー賞じゃ、文句あるかっ!