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アカペラ?

 このマスターにしてからが、ストリートで唄い出す以前からのマッサージのお客様なのであるけれども、ありがたいことに、友人や知人、あるいはお客様などが、わざわざオッサンのストリートライブに来てくれることがある。
 むろん、ときどきの話ではあるが、オッサンとしては、大変申し訳なく恐悦至極といったところである。
 楽しんで聞いてもらってればいいのだが、オッサンの演奏は、お世辞にも上手いとはいえない代物である。
 それこそ、ギターも歌もいつも間違えてばかりである。
 歌のレパートリーはけっこう多い方だと思うが、何一つとして、まともに演奏できるものはない。
 ひとことで言うと、とても人前で聞かせられるようなものではなく、ただ大声を出してうなっているのを、ギターの音を上からかぶせてごまかしているようなものなのだ。
 だから、誰も聞いてはいないつもりで、いつも唄っている。
 おもしろいもので、全く知らない人間であれば、さほど緊張はしないくせに、知り合いや友人などが来ると、妙に緊張してしまい、ただでさえ不器用なオッサンは、超不器用になる。
 それならば、誰にも内緒にして、こっそりと人知れずやっていればよいのだろうが、なにしろ、長崎浜の町アーケードのそれもど真中でやっているのだから、内緒にしたくても、できるわけがないし、第一にオッサンの性格からして、何事においてもコソコソとするのは嫌いなものだから、日常の会話でも、お客様とのやり取りでの話しでも、知らず知らずのうちに、ストリートで唄っていると話してしまうのである。
 今にはじまったことでもないのだが、オッサンは、後で自分の話した内容を思い出しては、つまらんことを話したと後悔することが多い。血液型がA型のせいだからなのか、訳の分からないところに神経質なのである。
 でも、結局は悩むほどのことでもないだろうと、いつのまにか、開き直って忘れてしまう。
 そうして、ひょっこりと友人や知人、マッサージのお客様などがやって来ては、驚きあわてふためくのだ。
 我ながらバカな男である。
 こうして、性懲りもなく、毎週土曜日(とはいっても、行けないといは行かない)の夜十時頃から十二時頃まで、うなり声を上げながらギターをかき鳴らしているのである。
 誰だったか、オッサンのギターがあんまり下手なのを見るに見かねて、アカペラで歌を唄うだけでいいのではないかと、真面目な顔をして言ってくれた者がいたが、オッサンは即答で断った。
 自分で言うのも変だが、オッサンが浜の町アーケードの真中で、ギターも鳴らさず、ただ突っ立って唄っている姿を想像するに、鳥肌が立つといおうか、恐ろしいほどの寒気さえ覚える。
 なんともマヌケな中年男の姿であろうか。その様子をイメージするたびに、何故か、可笑しくなって、吹きだしてしまいそうになる今日此の頃のオッサンである。