記事一覧

改装工事のアルバイト

恐るべしというのは、この老人の話は、とりとめがなく脱線につぐ脱線で、すぐに脇道へと入りこみ、これに細かい説明や自慢話も含まれているので、なかなか戻ってこない。
 「さて、何の話だったかな?あっ、そうそう・・・」というような調子で、長い脇道から袋小路へと行って、行き止まりになってやっと気付いて引き返してくるのである。
 悪気はまったくない様子であるが、聞いている人のことを考えてもいない。
 話をきいているうちに、何が何だかわからなくなってくる。
 会って、話をしていたのは、二時間くらいだったが、その内の一時間半は、全く用件とは関係のない話しだった。
 この老人を相手に、オッサンと電気屋の友人は、まるで借りてきた猫のように大人しく、うん・うん。と相づちを打ちながら、欠伸のでそうになるのを必死にこらえて、神妙に聞いていたわけである。
 要約すると、長崎大水害が起こる頃まで、浦上の方で食堂をやっていたのだが、ふと思い立ち、タウン情報誌をやろうと志しをたて、粉骨砕身の努力が実り、そこそこの成功をおさめた。これからは、長崎の夜の歴史や穴場となるスナックやバーの情報誌もやろうと考えている。と、ここまでが一時間半である。
 ここまで延々と老人の話をきいていたオッサンも、ついに痺れをきらし、「それで、つまり僕たちは何をやるために呼ばれたんでしょうか?」と聞いたのである。
 あとの三十分がやっと本題である。
 ようするに、前にやっていた食堂での思い出が捨てがたく、夜に、飲み食いの出来る店を出店したいというのだ。
 できれば、これから一ヶ月間くらいで準備を整えたい。ついては、ここの上を借りることにしていると、上を指さし、来週からでも工事をやり始めようと思っているという。オッサンと友人は、この話が確かかどうかを、先輩であるパブのマスターに尋ねた。
 どうやら話はついているらしく、マスターはこっくりと頷いた。
 この店は四階建てのビルの二階であり、その上の三階は、以前スナックとして貸していたのだそうだ。
 だから、内装がスナックのまま埃をかぶっている。遊ばしておくのも、勿体無いからこの老人へ貸そうと思っていると言った。
 だが、そのままでは飲食店にはならないから、手を入れて改装する必要があり、その作業員として、時間給の千円でアルバイトをしてみないかと言うわけなのだ。
 それに、他にも数人に声をかけているから、出来る時間に来て、手伝ってくれればよいと言うのだ。
 こんなに割の良いバイトもないと、オッサンと友人は承諾をして、作業を手伝うことになった。
 むろん、友人は電気屋があるから、そんなには来れもしないが、オッサンはフリーである。
 週明けから、ほとんど毎日のように手伝いにでかけた。
 そして、これはけっこう重労働であった。というのも、手伝いをするのだと軽い気持ちでとりかかったのは良かったものの、オッサンと友人の他に、見回りに来る老人と、二人の素人のアルバイトのみで、あとは誰もいないのである。つまり、素人のみでやっつけ仕事の改装工事なのだ。無謀と言ってよい。
 全員が同じ条件であるから、来れる時間に来て、作業をすればいいのだが、電気屋の友人が週に二回ほど来て、あとの二人は、それより少なく、不幸にもその内の一人は、途中で大怪我をして、全く来れなくなった。
 当然のことだが、一番バイト料をもらったのはオッサンである。