それから2週間ほどして返事が来た。
オッサンは、もう見合いはあの日で終わったと勝手に決めつけ、そう思っていたから、見合いのことなどすっかり忘れていた。
明日の仕事の準備も終えて、そろそろ帰ろうかという時に、中沢係長がオッサンを手招きして呼んだのである。
「この間の見合いはどうだった?」
(もう2週間もたっとろうがっ!何を今さら)と思いながらもオッサンは穏やかに答えた。
「楽しかったですよ、めったに、あんな美人とはデートはできませんからね。いい目の保養をさせて頂きました。ちゃんと失礼のないように家の近くまでお送りしましたので、ご心配なく」
「いや、そうじゃなくて、お前は彼女を気に入ったのかと聞いているんだ。」
「ええ、まあ、気に入りました。」
「そうだよなぁ、すっごく美人だったもんなぁ!」
「ですよね。正直、何が悲しくて俺なんかと見合いするのかと思いましたから、彼女なら掃いて捨てるほど相手がいるでしょうにね」
「その彼女から返事が来たぞ。何と言ったと思う?」
「そうですね。さしずめ、良い人で、楽しいデートだったけど、今回はお断りさせて下さいってところですかね」
ここで、中沢係長は何を思ったか、プッと吹きだしながら、大声で笑い出した。
「そんなに笑うこたぁ、ないでしょう」
「いや、すまん、すまん、お前があんまり先回りして結論を出すもんだから、つい可笑しくなってな」
「俺も馬鹿じゃないんだから、だいたいの予想はつきますよ」
「それがちがうんだよなぁ、彼女は、お前のこと気に入って、是非、付き合いたいって言ってきたよ」
「ええーっ! まじですか?」
この時点で、オッサンの頭はショートした。
完全にまっ白になった状態である。
「それで、お前どうする?先方には何て言う?」
「・・・・・・」
「おい、聞いてんのか?どうするんだっ!付き合うのか、やめるのかっ!」
「はっ、はぁー、断る理由はありませんが・・・・・・」
「よしっ、わかった。先方にはOKの返事をしとくからな。いいなっ!」と勝手に中沢係長は話を決めてしまった。
だが、オッサンは、はっきりと返事をしてはいないのだ。
というより、頭の中では星がきらめき、それこそ、ラリったような感じだった。
ただ、見合い相手の彼女に、恥をかかせたくはないという思いはあった。
けれども、このとき、よく考えていれば断る理由はあったのである。
というのは、彼女の希望は婿養子として家に入って欲しいと、いうことで、長男であるオッサンとしては、絶対にそれは出来ない事なのである。
しかし、もう遅いのだ。
中沢係長は、オッサンに結婚相手を見つけてやったことで、満足の笑いを浮かべている。
やっと我に返ったオッサンは、なんだか申し訳ないような気持ちで家路をたどりつつ、大きな疑問をもっていた。
(彼女は、一体何を考えているのか?オッサンのどこが気に入って、是非に付き合いたいなどと返事をよこしたのか?)
もちろん、頭の悪いオッサンが、いくら考えても、わかるはずもなかった。