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責任者へ昇格

 少し横道にそれてしまったので、話を元に戻そう。
 そんなわけで、おっさんも、めでたく責任者へと昇格してしまったわけであります。
 さて、それからが大変でありまして、四名の係員を従え管理しなければならないわけです。
 見るのと、やるのとでは大違いとは、まさにこのことで、まともで当たり前な者はそうそう居るものではありません。
 おっさん自身も他人の事がいえたものではありませんが、実に一クセも二クセもある連中と付き合っていくことになったのであります。
 おっさんの係りに配属されてきたのは、男二人と女二人で、もちろん新入社員であります。
 ついこの前まで、おっさんも新人のつもりでありましたが、もう入社して一年が過ぎており、この頃にはトップセールスマン達にも一目置かれる存在となっておりました。
 むろん、トップセールスマンには、まだまだ遠くおよばない成績でしかありませんでしたが、皆が言うには、おっさんは大器晩成型だということでありました。
 平社員のうちは、それでおだてられ、いい気になっておればよかったのですが、責任者となってしまうと、そうはいきません。
 嫌でも、係員一人一人の生活を考えてやらねばならず、時には自分の営業を一日捨てて、逆同行。 つまり係員の後に付いて、その仕事ぶりを見てやり、アドバイスを与えたり精神面のケアをしてやらなければならないのであります。
 要は以前に、前沢係長や所長にしてもらったことを今度は、自ら係員へとしてやるわけです。
 そして、初日から波乱は起こりました。
 係員の一人が出社してこないのです。
 もしや連絡もなしに休んだのか。あるいは辞めたのか?と思っていましたが、事務方から自宅へと連絡をとってもらったところ、家はもう、とっくに出たと言う事だったので、待っていると四十分後に彼女はやっと出社して来たのであります。
 短大を卒業したばかりの、可愛らしい女の子なんですが、これが困った娘で、これ以降一年近く、毎日遅刻してくるようになるのであります。
 さすがの、おっさんも皆の迷惑も考えろと、何度か真剣に怒りましたが、その時は反省したように泣きながら謝るのですが、また遅刻してくるのであります。
 そのうち、おっさんもバカらしくなり、放って置くようになりました。
 もう一人の女子社員は、四年生の大学を卒業したということで頭もよく、営業成績もおっさん達と肩を並べるほどの実力を発揮しましたが、一人っ子で泣き上戸なのであります。
 外で営業をしているときは、堂々としたものなのでありますが、車内へと戻ってくると、あんなことを言われただとか、あんなにヒドイ仕打ちはないだとかと、愚痴をこぼしながら泣くのです。まるで自分が世界で一番かわいそうなヒロインとでも言わんばかりで、この女子社員にも手こずりました。
 あとの二人の男性社員ですが、これが真反対の性格でありまして、一人は声も小さく何をするにも自身がないという感じのお坊っちゃまタイプ。もう一人は陽気で明るく気合いも十分という好青年でありますが、少々ガラッパチみたいで、売ろうと焦るあまり、あまりお客に信用してもらえず、どうにも契約には結びつかないという、まことに損なタイプの男でありました。
 とにもかくにも、こういう連中を引き連れて、おっさんの、中学課四係はスタートを切ったわけでありました。