この友だちの観察力はたいしたもので、気付きにくいことをよく見ている。
だから、オッサンとしては、ずいぶん勉強になることも多いし、かなり助かってもいるのだが、審査員の一人が「眠ってたぞ!」とあきれた顔をして言ったのにはがっかりした。
(なんだって!ふざけんじゃねえぞ)とたいして努力もしていないオッサンでさえも腹が立った。
まして、楽譜も見ずに演奏のできるほど練習をして(オッサン以外の者は皆そうだった)出場した者達が知ったとしたらどんな気持ちがしただろう。
それから、この友人はオッサンの演奏に対しての感想も語った。
「リハーサルの時は良かったんだけどな・・・」と気を使って遠慮がちに友だちが言うのを要約すると、つまり、サビの部分は声も言葉も聞こえていたが、他のところはムニャムニャという感じで、あまりはっきりとは聞き取れなかったとのことだった。
考えてみるに、オッサンは楽譜台を前に置いて立ち、ギターをかき鳴らしながら、身体を揺らして唄っていたため、マイクに近づいたり離れたりしていたものと思われ、その為にそんな風に聞こえたと推測できる。
サビのところなどは、嫌でも声を張り上げるはら、多少マイクから離れても聞こえたのだろう。
そして、極めつけはギターの三弦の緩みである。
なんだか予選落ちした言い訳をしているようになっているので、ここでハッキリと断っておこう。
むろん、こんな事があってもなくても結末は同じであったと、オッサンはしっかり自覚している。
これは単なる事実起こったこととして書いているだけである。
そもそも、楽譜を見なければ演奏ができない程度の練習しかしていないし、普段から他人に演奏を聞いてもらおうなどと考えてもいないものが、こんな音楽祭で演奏すること自体が間違っているとも言えるのである。
それは、それとして、オッサン達が不可解だったのは二次予選であった。
せっかくだからと、オッサンと友人は、しばらく残って誰が最終選考まで駒を進めるだろうかと、二次予選のメンバーの演奏を聞きながら予想を立てた。
思った通り、オッサンと友人の予想はバラバラだったが、互いに自分の予想が当たっているものと確信していたはずである。
ところが、この予想は二人とも完全にハズレていた。
というのも、二人ともコイツは間違いなく通過すると思っていた演奏者をはじめとして、プロ並みの上手な人たちが次々と落とされたのである。
これはどうしたことだろう?
結局、最後の三組(一位、二位、三位)に残ったのは、ストリートミュージシャンの若手ばかりで、全てメインボーカルは女性だった。
確かに彼女らは、それなりに素敵な演奏を聞かせてはくれたが、あきらかにそれ以上の実力をもった演奏者たちがいたのである。
「わからないもんだなぁー」と首をひねりながら、オッサン達は帰路についたのだが、その途中に、ああだのこうだのと話すうちに、つまるところ、若手ミュージシャンを応援しようという審査方針みたいなものがあったのだろうということに落ち着いた。
そして、実力もなく他人に唄を聞かせようとも思わない中年のオッサンは、居眠りをしていたという審査員に、もうれつな怒りを燃やし、来年のリベンジを誓うのであった。
(俺を落としやがって、コノヤローっ!)