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公園ライブ

 とくに言い訳をするほどのことでもないと思うのだが、実は、このところオッサンはストリートライブに行けていない。
 どうしてかというと、毎年のことだが、冬場と夏の直前、梅雨時期には、マッサージ業は忙しくなるのだ。
 冬は言うまでもなく寒いから筋肉が凝りやすいのは想像できると思うが、梅雨時期の湿度というのにも筋肉は影響されるのだ。
 ストリートライブに出たい気持ちはあるものの、仕事が忙しくて、それどころではない。オッサンとしては嬉しい悲鳴といったところである。
 かといって、歌を唄うことによってストレスを発散しようというオッサンの欲求がなくなるわけではない。
 それではどうするのか? オッサンは無い知恵をしぼって考えた。
 ようするに、歌が唄えればストレスは発散できる。街へ出ていかなくてもよいではないのか?自分の場合は、たとえ誰も聞き手がいなくとも充分に楽しんで歌を唄える。
 たしか、自宅の近くに小さな公園があった。そこでもいいんじゃないか?
 まことに情けないが、オッサンの思考というのは、このようにゴリラに毛がはえた程度の複雑さでしかない。
 そこで、さっそくオッサンはギターを抱え、自宅から歩いて五分くらいのちいさな公園へと向かったのである。
 もちろん昼間の話である。
 小さな公園で、ほとんど誰も来ないとは言っても、その周囲は普通の民家が並んで建っている。
 夜ではまずいのだ。昼すぎから夕方くらいの時間でなければ、この場所で歌を唄うことは好ましくない。
 オッサンの仕事にしても、四時、五時、六時というのは比較的にヒマなのである。
 だから、これはパチンコ玉位しかないオッサンの脳ミソにしては、なかなかの名案であったのだ。
 実際、誰もいない公園で好き勝手に歌が唄えた。(こりゃあいいぞ、いい場所をみつけた。これから時々、利用しよう。)
 だが、そう思えたのもつかの間。どこからか二、三人の子供がやって来た。
 小学校の五、六年といったところだろうか、しばらくは、サッカーボールで遊んでいたのだが、まもなく三人ともオッサンから少し離れたベンチに揃って座り、なにやらオッサンの唄うのを聞いているようである。
 オッサンは、いつものように知らん顔をして歌を唄っていた。(内心では、早くどこかへ行ってくれというオーラを出しているつもりである。)
 ありがたいことに十分ほどで子供等はいなくなってくれた。
 さあ、やっとこれで伸び伸びと唄えるぞと、気合いを入れ直して唄いはじめた。
 すると、今度は三十歳位のおそらくフリーターと思われる男がやってきて、この男は近くのベンチに座って、お前の歌を聞いているぞと言わぬばかりに、足で調子をとっていた。
 聞きたければ勝手に聞いていてくれればいいが、間違ってもリクエストなんぞするなよと思いながら、オッサンは、例によってシカト顔で唄った。
 そうして無事に、リクエストもせず、その男が帰ったときには、はやくも一時間が過ぎていた。
 あせりもなくなり、落ち着いて気が付いてみるとやたらに手足が痒い
この公園の脇には川が流れていて蚊が多くいたのである。
 そして、今日はもうこれくらいで帰ろうとギターケースに入れているときである。川の向こうの家から、六十歳位の初老の男性が出てきた。(この人は町内会長かなにかで、文句を言いに出てきたにちがいないと思った。)
 すると、その老人は「いい歌ですね。さっきからずっと聞いてるんですよ。もうしばらく唄って下さい」「え?ああ、どうもありがとうございます。」この後一時間ほど唄って帰った。